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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)3976号 判決

原告

伊藤允正

ほか一名

被告

大串明彦

ほか一名

主文

一  被告両名は各自、

(一)  原告伊藤允正に対し金八〇万〇、七九八円およびこれに対する昭和四七年二月七日から完済まで年五分の割合による金員

(二)  原告株式会社松海に対し金八三万四、四七三円およびこれに対する昭和四七年二月七日から完済まで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

二  原告両名の被告両名に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告伊藤允正と被告両名との間に生じた分はこれを四分し、その一を被告両名の、その余を同原告の各負担とし、原告株式会社松海と被告両名との間に生じた分はこれを八分しその一を被告両名の、その余を同原告の各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「(一) 被告両名は各自、

1  原告伊藤允正に対し金三五〇万円およびこれに対する昭和四七年二月七日から完済まで年五分の割合による金員

2  原告株式会社松海に対し金六五〇万円およびこれに対する昭和四七年二月七日から完済まで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

(二) 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言

二  被告ら

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

(一)  事故の発生

昭和四七年二月七日午後七時五八分ころ大阪市西区南堀江通二丁目二二番地先の交差点において原告伊藤が運転し北から南に向かつて進行中の普通乗用自動車(泉五五の五九八四号、以下原告車という。)に被告大串が運転し西から東に向かつて進行中の普通乗用自動車(泉五五に八六四五号、以下被告車という。)が衝突した。

(二)  被告らの責任

1 被告大串は原告車が先に交差点に進入し、徐行しているのにもかかわらず、前方を十分注視しないで、しかも約六〇キロメートル毎時の速度で交差点に進入通過しようとしたものであり、本件事故は同被告の運行上の過失により生じたものである。

2 被告車は本件事故当時、被告ダイキ開発株式会社(以下、被告会社と略称する。)の所有に属し、その業務のために運行中であつたものであるから被告会社は同車の運行供用者であり、かつ、被告大串は被告会社の被用者としてその業務を執行中右事故を惹起したものである。

3 仮にそうではないとしても、右事故当時、被告大串は訴外大起開発株式会社(以下、大起開発と略称する。)の営業課長であり、同被告は同会社の用務のために得意先を被告車を運転して訪問し、その帰社の途中に右事故を惹起したものである。同会社は自賠法三条、民法七一五条により原告らに対し損害賠償債務を負担するところ、これを免脱するために被告会社は大起開発の営業財産をそのまま流用し、単に商号を片仮名に変更しただけで昭和四七年三月二日登記されて設立されており、新旧会社の経営の実権は訴外浜元喜一郎が掌握しており、その営業目的、従業員の構成も同一であり、ちなみに大起開発は同年八月二五日解散し、翌九月一日その登記を了している関係にあるから原告らは同会社に対する債権を被告会社に請求し、その責任を追求することができる。

(三)  損害

1 原告伊藤関係

(1) 受傷 頭部および右胸部打撲傷、右第四、五、七肋骨骨折。

(2) 治療経過

昭和四七年二月七日から同月一七日まで大野病院に入院。同月一八日から同年七月三一日まで同病院に通院。

(3) 後遺症

肋間神経痛、交感神経刺激症候群、全身のしびれ感。

(4) 損害額

イ 治療関係費 五万七、七一二円

(イ) 治療費 二万五、三〇〇円

(ロ) バストバンド 二、六〇〇円

(ハ) 入院雑費 三、〇〇〇円

(ニ) 入院付添費 七、四一二円

(ホ) 通院等交通費 一万九、四〇〇円

ロ 慰藉料 三〇〇万円

同原告は右事故による受傷、治療の苦痛に加えて後遺症の残存により軽易な労務にしか従事できないので、原告株式会社松海(以下、原告会社と略称する。)の代表取締役としての職務の遂行が思うにまかせず日々苦悩しているので、その精神的苦痛に対する慰藉料は標記の金額となる。

ハ 弁護士費用 三五万円

2 原告会社関係

(1) 原告車の右側面破損

修理費二〇万六、〇〇〇円、評価額二九万〇、五四五円

(2) 営業損害 八二六万円

原告会社は原告伊藤の個人会社で乾海苔の加工販売を主たる営業としており、同人のほかには仕入れの担当者はいないので、同人の入院により仕入の最も重要時期を失したため、昭和四七年六月から一〇月までに使用する海苔の原料三五〇万枚につき少くとも一枚につき二円割高で仕入れざるを得なくなりその損害は七〇〇万円となつたほか、同年二月から八月までの間万代百貨店に赴いて海苔製品の宣伝販売をすることができず、同百貨店での一月の売上高は三〇〇万円を下らなかつたので、同期間中に少くとも二、一〇〇万円の売上高の減少を来たし、純利益はその六%を下らないので、原告会社は少くとも一二六万円の損害を被り、これを合計すると標記の金額となる。

(3) 弁護士費用 六五万円

(四)  よつて、原告伊藤の損害は三四〇万七、七一二円、原告会社の損害は九四〇万六、五四五円となるので、いずれも被告両名に対し、原告伊藤は金三五〇万円(前記損害額を超え違算と思われるが、そのまま掲記する。)およびこれに対する本件事故発生の日である昭和四七年二月七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告会社はそのうち、金六五〇万円およびこれに対する前同様の昭和四七年二月七日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告大串の答弁

請求原因(一)は認める。同(二)の1は否認。同(三)のうち1の(1)は認めるが、その余は不知。同(四)は争う。

三  同被告の抗弁

仮に同被告に過失があつたとしても、本件事故の発生は原告伊藤の原告車の運行上の過失にも基因しているので損害額の算定に当つて相当の過失相殺がなされるべきである。

四  被告会社の答弁

(一)  請求原因(一)ないし(三)は否認。同(四)は争う。

(二)  被告会社は大起開発の営業担当員であつた渡辺一美が昭和四六年一二月ころから同会社とは関係なく新たに自分の手で不動産の仲介販売を始める事業欲から設立準備を進めていたもので、同人は被告大串が本件事故を惹起したのを知つたのは昭和四七年五月ころである。したがつて、被告会社は大起開発の原告らに対する損害賠償債務を免脱する目的で設立されたものではなく、また浜元喜一郎からその設立に際して融資を仰いだことはあるが、同人は被告会社の経営にはなんら容かいしておらず、また商号を類似にしたのは渡辺らが大起開発に対する貢献度を自負し、その知名度を利用したまでであり、同社の従業員三〇余人中一七、八人が被告会社に移籍したことは認めるが、それは渡辺が引抜いたものであつて、被告会社は大起開発の事業とは全く別個の土地の販売をしている新規の別会社である。したがつて、大起開発の債務を承継したり、また、その債務につき支払責任を負うものではない。

五  被告会社の抗弁

仮りに、本件事故につき、被告会社に原告らに対する損害賠償義務があるとしても、原告伊藤は交差点を通過するに当つて徐行せず、またその進入の際二〇数メートル右前方に被告車の前照灯の光りを求めながら急制動の措置を採らず、漫然と進入した点に運行上の過失があるので、損害額の算定に当つて相当の過失相殺がなされるべきである。

六  被告らの抗弁に対する原告の答弁

前記三および五の抗弁は否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因(一)の事実は原告らと被告大串との間では争いがなく、被告会社との間では成立に争いがない甲第三号証、同第五、六号証、同第七号証の二、同第八ないし第一一号証によつてこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  請求原因(二)の1の事実については被告大串はこれを否認したうえ、仮定的に原告伊藤の過失をもとに過失相殺の主張をし、被告会社も仮定的に同様の主張をするので本件事故の発生状況についてみてみる。

(一)  前掲甲第三号証、同第六号証、第七号証の二、同第八ないし第一一号証(ただし、以上の各書証は被告大串との関係ではその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定される。)および原告兼原告会社伊藤允正本人尋問(以下、単に原告本人尋問という。第一回)の結果によれば、次の事実を認めることができ、右認定に反する適当な証拠はない。

1  本件事故現場はいずれも歩車道の区分のないアスフアルト舗装の幅員約一一メートルの東西に通ずる道路と南北に通ずる道路が交差する交差点であり、その北西角には倉庫が建つており、同交差点に西から進入する車両と北から進入する車両との相互の見通しは悪く、同現場付近は公安委員会が最速度を四〇キロメートル毎時に指定していること。

2  被告大串は被告車を運転して東西に通ずる道路の左側部分の約三メートル中央寄りを毎時四五ないし五〇キロ毎時の速度で東進し、そのままの速度で交差点に進入しようとしたが、その手前約一〇メートルの地点で左前方約一七・六メートルに原告車が同交差点に北から入ろうとしているのを発見し、危険を感じて急制動の措置を採つたが及ばず、約一五・五メートル進行し、同交差点の西端から約六・一メートル、北端から約三・七メートルの地点で被告車の前部が、原告車の右側運転席のドアー部分付近に衝突したこと。

3  他方、原告伊藤は南北に通ずる道路の左側部分を中央寄りに約三〇ないし四〇キロメートル毎時の速度で南進し、交差点に進入しようとした際、その直前で右方を見たところ、約二二・二メートル右前方に同交差点に向つて進行して来る被告車の前照灯を発見したが、約二〇ないし三〇キロ毎時に減速しただけで交差点に進入したこと。

(二)  右事実からすると、交差点に先に進入したのは原告車であり、同車は左方道路の進行車両であるから被告大串は交差点手前で一旦停車するなり、仮に進入するにしても徐行して原告車を優先通行させて進路を避譲し、衝突を回避すべき注意義務があるのにもかかわらず、これを怠り、漫然と同一速度のまま進行した過失があり、他方原告伊藤も被告車がなんら減速せずに進行して来るのを発見しながら一旦停車ないし徐行せずに交差点に進入した過失があり、双方の過失が競合して本件事故が発生したものと認めるべきであり、その過失割合は同被告の過失を七とすれば、同原告のそれは三とするのが相当である。そうとすれば、同被告は民法七〇九条により本件事故により原告らが被つた各損害について原告らに対し賠償すべき義務があるというべきである。

三  次に請求原因(二)の2の主張につき判断するに成立に争いがない乙第一号証によれば、被告会社は昭和四七年三月二日の設立登記をもつて設立されたものと認められるから、その余の判断をするまでもなく、右主張は理由がない。そこで、同(二)の3の主張につき検討する。

(一)  証人神田昭二郎の証言により成立を認めうる甲第一号証、前掲同第六、九号証、乙第一号証、成立に争いがない甲第二号証、乙第三号証、証人海下森繁の証言(一部)および被告会社代表者本人尋問の結果(一部)を総合すれば次の事実を認めることができ、右尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に対比してたやすく措信することができず、また、海下証言の一部も右認定を覆すに十分でない。

1  被告大串は、本件事故当時、大起開発営業部第二課長であつたが、昭和四七年二月七日は部下や同僚と共に自動車二台に分乗して同会社の用務として、同会社の顧客である神戸市兵庫区に在住の訴外角田勇方の温床を作る手伝いに行き、それを終つて被告車を運転して同会社事務所に帰る途中右事故を惹起したものであり、同車の使用者の登録名義は同会社の営業部長である訴外渡辺力になつているが、実質は同会社が使用管理し、専ら同会社の用務のために日常運行の用に供していること。

2  同会社は浜元喜一郎が経営権を掌握している不動産の売買を主たる営業目的とする株式会社で昭和四五年一二月二一日本店を大阪市南区北炭屋町一一番地の二に置いて設立されたが、昭和四六年一月本店を同市西区南堀江通一丁目一七番地に移転したのち、同年秋ころから同会社の営業部門を土地の買入れ、分譲地の造成とその販売とに分割し、それぞれ会計を別にし別会社で取扱う方針を立てて、同年一〇月前者の営業部門を取扱うものとして同所を本店として訴外大輝企業株式会社を設立し、その後同会社の本店は昭和四七年二月同市天王寺区六万体町一三番地(第二好陽ビル内)に移転し、さらに後者の営業部門を取扱うものとして被告会社が同年三月二日に同一場所に本店を置いて設立されたこと。しかし、同年二月二〇日ころから大起開発の従業員はすべて同市西区南堀江通の事務所から同市天王寺区六万体町の事務所に移り、前者の事務所は閉鎖され後者の事務所で被告会社名の商号で営業が継続され、大起開発は同年八月二五日をもつて解散し、同年九月一日その登記を了したこと。

3  被告会社はその役員が大起開発のそれとは全く異るが、同社の営業部長であつた渡辺一美が中心となり、そのほか同社の幹部従業員が主たる発起人となる形で設立手続が進められ、右渡辺が被告会社の代表取締役に就任したが、前記浜元の妻秀子が発行済株式の十分の一(四〇〇万円)を保有し、監査役に就任していることから経営権はなお喜一郎が掌握していると窺われ、大起開発の従業員三〇人中、退社した者を除き一七、八人のすべては被告会社に移籍になり、その移籍に当つて格別の手続も採られなかつたところから、その従業員は単に商号が変更になり、事務所の場所が移転した程度の意識しかなかつたこと。

(二)  そうだとすると、被告会社の設立は、原告らが主張するように大起開発の原告らに対する損害賠償債務の免脱を図るために企図されたものと認めるに足る証拠はなく、また、大起開発から被告会社に対する営業全部の移管につき、両会社の株主総会の特別決議その他所定の手続や、前者の債務につき後者の債務引受等が行われたことなどを認めうる証拠はないが、いずれにしても大起開発の営業財産はその従業員の雇用関係も含めて、被告会社がこれをそのまま流用していることからして、両会社は実質的には前後同一であると認めるのが相当であるから、被告会社は大起開発の原告らに対する債務を当然に承継したものとみなされるので、原告らは大起開発に対する債権につき被告会社に対しその支払を請求し、責任を追求できるものと解すべきである。

(三)  そして、前認定の事実からすると右事故当時大起開発は被告車を自己のために運行の用に供していた者であり、かつ、被告大串は同会社の被用者としてその業務執行中に右事故を惹起したものであるから、同会社は自賠法三条本文、民法七一五条一項本文により原告らに対し、同人らが右事故により被つた損害につきこれを賠償すべき義務があり、同会社の債務は被告大串の前記の債務と不真正連帯の関係にあるといえる。よつて、原告らは同会社の債務について、被告会社にその支払を求めて、責任を追求することができるというべきである。

四  そこで、原告らの損害について検討する。

(一)  原告らと被告大串との間では原告伊藤が本件事故により請求原因(三)の1の(1)に主張の傷害を被つたことは争いがない。被告会社との間では成立に争いがなく、被告大串との間では原告本人尋問(第一回)の結果により成立を認めうる甲第四および第二二号証、右尋問の結果により成立を認めうる同第二五号証によれば、同原告が右事故により請求原因(三)の1の(1)ないし(3)に主張のとおり受傷し、その治療経過を経、その後も松田神経科内科診療所に通院治療したが、現在なおその主張の後遺症が残存していることが認められる。

(二)  右事実を前提として、まず同原告の損害額明細について検討する。

1  治療関係費

(1) 治療費

原告本人尋問(第一回)の結果により成立を認めうる甲第一七号証の一ないし九によれば、原告伊藤は松田神経科内科診療所に治療費二万五、三〇〇円を支払つたことが認められる。

(2) バストバンド代

右尋問の結果により成立を認めうる同第一三号証によれば、同原告は肋骨骨折の治療のために大野病院からバストバンドを購入し、その代金二、六〇〇円を支払つたことが認められる。

(3) 入院雑費

経験則上、同原告の一日当りの入院雑費は四〇〇円が相当であるから一一日分のそれは四、四〇〇円となる。

(4) 入院付添費

右尋問の結果により成立を認めうる同第一二号証によれば同原告は同病院の入院期間のうち、昭和四七年二月八日から同月一一日までの四日間尼崎市所在の厚生看護婦家政婦紹介所所属の訴外長尾ミネに付添看護を依頼し、同人に報酬として七、四一二円を支払つたことが認められ、それは原告の当時の病状等からみて相当な損害であると認められる。

(5) なお、同原告は通院等交通費一万九、四〇〇円を請求するが、右尋問の結果により成立を認めうる同第一四ないし第一六号証および右尋問の結果によれば、右は同原告の兄伊藤正彦が同原告との事務連絡等のため同病院に往復したタクシー代などと認められるので本件事故と相当因果関係がないので、被告らに賠償を求めうる損害とは認められない。

2  慰藉料

本件事故の態様、同原告の受傷、治療経過、後遺症の部位、程度、その残存期間に合わせて、同原告は原告会社の代表取締役で、同会社をほとんど一人で采配しているが、受傷や後遺症の残存のためにそれが思うに委せずかなりの精神的苦痛を被つたことが右尋問の結果により認められるので、それに対する慰藉料は一〇〇万円が相当であると認める。

以上合計すると、原告伊藤の被つた損害額は一〇三万九、七一二円となる。

(三)  次に、原告会社の被つた損害額について検討する。

1  原告車の破損

(1) 原告本人尋問(第一回)の結果により成立を認めうる甲第一九ないし第二一号証および第二六号証に弁論の全趣旨を総合すれば、原告会社は右事故当時訴外日産プリンス大阪販売株式会社から昭和四六年一一月に原告車を所有権留保付で代金九四万五、〇〇〇円で購入使用していたが、右事故により右側ドアー付近を破損されその修理費用に二〇万六、〇〇〇円を要し、その後翌四七年二月ころ同訴外会社から他の自動車を購入したときに、原告車を価額を三五万三、〇〇〇円に評価して下取りに出したことが認められる。そして、原告車の耐用年数を六年とみて、四か月分の定率法による減価償却をすると同車を下取りに出したときの右方法により算定した価格は八四万四、五一五円〔算式九四五、〇〇〇×(一-〇・三一九×四/一二)〕なりこれと三五万三、〇〇〇円との差額四九万一、五一五円は一応同車の評価損とみられないではない。しかし、本件事故により同車の走行機能その他に特段の支障を来たしたことを認めうる証拠もなく、下取り価額も使用済期間の割には低廉であること、修理費用もさ程に多額ではないこと等に照らすと右の差額をそのまま評価損と認めることはちゆうちよせざるを得ない。

(2) したがつて、経験則上、修理費用二〇万六、〇〇〇円のほぼ半額の一〇万円を評価損と認めるのが相当であるので、原告車の損害額は修理費用二〇万六、〇〇〇円に評価損一〇万円を加えた三〇万六、〇〇〇円であると認める。

2  営業損害

(1) 原告本人尋問(第一回)の結果および弁論の全趣旨によれば、原告会社は資本金一、〇〇〇万円の乾海苔の加工および販売を主たる営業とする株式会社で原告伊藤が代表取締役であり、ほかに同原告の兄伊藤正彦らが取締役になつているが、同人は糖尿病のため業務執行にあまり携われないので、同原告が常雇の従業員七人、パートタイマー一〇人位と共に、かつ、これを指揮してほとんど一人で采配し原告会社を経営していることが認められるので、原告伊藤は原告会社としては不可欠の存在であり、機関としての代替性がなく、いわゆる個人会社として同人と同会社とは経済上の一体性があるといえるので、原告伊藤が受傷により就労できなかつたため原告会社が被つた逸失利益の損失は本件事故と相当因果関係があるというべきである。

(2) まず、原告会社は原告伊藤が入院したことにより海苔原料の仕入れの最も重要時期を失したことによりその後少くとも二円割高でこれを買入れざるを得なくなつたことによる損害を主張するが、原告本人尋問(第一回)の結果により成立を認めうる甲第二三、二四号証および右尋問の結果をもつてしても右主張を認めるに十分でなく、ほかにこれを首肯しうる的確な証拠がないので、右損害の主張は採用できない。

(3) しかし、原告本人尋問(第一、二回)の結果により成立を認めうる甲第一八号証の三、四および右尋問の結果によれば原告伊藤は万代百貨店内に設置している原告会社の各店舗で乾海苔の宣伝販売をその従業員と共になし、同原告一人で事故前の昭和四六年一一月から翌四七年一月まで月平均三二三万九、七二二円の売上げがあり、純益はその四%であると認められ、かつ、同原告の病状からみて事故の翌日から同年八月上旬ころまでの六か月間右のような態様の業務には就労でき得なかつたと認めるのが相当であるから、それによつて被つた原告会社の逸失利益の金額は七七万七、五三三円となる。

以上合計すると、原告会社の損害額は一〇八万三、五三三円となる。

五  前認定の原告伊藤の損害額一〇三万九、七一二円および原告会社の損害額一〇八万三、五三三円につき、前記二の(二)に説示の双方の過失割合その他を勘案して過失相殺をなし、その三〇%を減じると原告伊藤の被告らに対する賠償債権額は七二万七、七九八円となり、原告会社のそれは七五万八、四七三円となり、本件事案の内容、訴訟経過、その難易度、認容額等に照らすと弁護士費用は原告伊藤につき七万三、〇〇〇円、原告会社につき七万六、〇〇〇円と認めるのが相当である。

六  よつて被告両名は各自、原告伊藤に対し、本件事故による損害額金八〇万〇、七九八円、原告会社に対し、同様の損害額八三万四、四七三円および右各金員に対する右事故発生日である昭和四七年二月七日からそれぞれ完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告らの本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担および仮執行の宣言につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項、一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

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